親父

久しぶりに、親父に会った。 だいぶ痩せた印象だった。 この数年のうちに、一気に老け込んだようにも見えた。

たまに、祖母の様子を見に、実家へ行く。 もちろん祖母以外の、誰もいない時間を見計らって。 自分が出かけた時のお土産や、一人暮らしでは食べきれない食材をもって。

実家といっても、持ち家はすでに手放したから、今は借家で、窮屈な一軒家になった。 家出をする前、家族で祖母だけが自分の理解者だった。

その日は、時間が夜9時を過ぎてしまった。 けれど、お土産と頂き物のトウモロコシを、どうしても渡しておきたかった。 祖母に一度電話してから、実家に向かった。

小さな玄関口。 壁の薄明るい、橙色の電燈。 横に扉を引いて、少し息を大きく吸った。

「おばあちゃん?」

祖母は耳が良くないから、ふだんより大きな声で呼んだ。

でてきたのは親父だった。

「オウ」

そういいながら、笑顔で、でてきた。 それも、今考えると笑ってしまうんだけれど、パンツ一丁で、でてきた。

ちょっと面食らったけど、それを悟られないように表情を作って、

「これ・・・」

といって、中身が一杯で膨らんだビニール袋を差し出した。

親父は、「ありがとう」といって受け取った。

「じゃあ、俺、行くよ」

玄関を出ようとすると、親父が引きとめた。

「ちょっと待て・・・・・・」

親父は数枚の千円札を突き出してきた。

「いいよ、俺は大丈夫だから」

親父は少し強引に、「いいから」といいながら、俺の手に札をねじ込んだ。

「このくらいの事しかしてやれないから」

小さな明かりが照らす玄関を、一度だけ振り返ってから、車に乗った。

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【 二十五ノ夜 】
ChaosBoy

テーマは「脱・思考停止」。
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