挫折

2004年9月。

俺は店をやめた。

家族、統括責任者には7月くらいから、ずっと話してきた。

そして、就職活動をしていた。
家族はその時、どんな気分だったんだろう?

仕事が決まり、辞めるという時になって色々言ってきた。

「いきなり辞めるなんておかしい」だとか
「次の人間が育つまで・・・」とか
「そんなんじゃ社会じゃ通用しない」とか・・・。

でも、もう遅かった。
俺の心はもう決まっていたんだ。

辞めたとき、ようやく重荷が下ろせた清々しい気分と、奇妙な罪悪感が交じり合った複雑な気分だった。

少しだけ気になっていたこと。

俺が面接をして、一緒に仕事をしてきた仲間たち。
思い入れの深さもあって、申し訳ない気持ちもあったし。
この人たちがいるから仕事をがんばれる、そんな風に思い始めていたから。

そしてこれからの店の行方を考えると、みんなを置き去りにしていくような後ろめたさもあった。

嬉しかったのは、みんなが俺を慕っていてくれたこと。
みんな今でもいい友達だと思っている。

2004年10月。

某中古自動車買取専門店の営業として仕事を始めた。

そこは業界最大手。
日本の企業の中でもかなり業績を伸ばしていることで知られている。

選んだ理由は、「働いただけ給料がもらえる」からだった。

つまり、金だ。金が欲しかった。

約2週間本社まで行って合宿研修だった。

日本全国からやってきた同年代の人たちでいっぱいだった。
営業の研修というのは・・・予測してはいたが、本当に、イヤだった。
それでも仲間もできて何とか合宿を終えることができた。

終わる2日くらい前に就職先が発表された。
滋賀県。

しかもまだできていないというので、とりあえず実家の近くに配属となった。
近くといっても車で1時間ちょっと。隣の群馬県だった。

営業の仕事は、とことん合ってなかったみたいだった。
とにかく、あの独特の雰囲気が耐えられなかった。

金、力、上下、権力、圧力。

当たり前のことが耐えられなかった。

平均年齢が29歳の会社だったから同年代だ。

24歳の副店長はベンツのSUVに乗ってたし、27歳の妻子持ち副店長はRX7、店長はCIMAで財布にはいつも20万近く入ってた。

店長の机の上にあるコンビニの袋。
毎朝、彼が買ってくるんだ。食い物とか飲み物。
7割は食ってなくて、朝の掃除の度に、俺が捨てた。

俺は、なんか怯えてた。
毎日怖かった。
なんでだろう?

朝6時に起きて8時半に会社に着く。
俺は研修中という名目で、午後10時くらいに帰らせてもらえてた。
みんなは、午前1時か2時が当たり前。

「お前はほかの店舗に行くやつだから、仕事は教えねぇよ」

最初の日に、店長に言われた。
冗談なのか、本気なのか。
たぶん冗談なんだろう。
でも、笑えなかった。俺、怖かったから。
完全に萎縮してた。

朝、車に乗って渋滞すると必ず眠くなる。

「このまま居眠りで事故った方が、会社に行くよりましかもな。」

なんて、本気で考えたりした。

耐えられなくなって、辞める事を決めた。
本当に卑怯で情けないけど、電話で伝えることにした。

答えは、ふざけんじゃねぇ、だった。

「お前それでも店長やってたんだろ?ふざけんな、そんなんで通用するわけがねぇんだよ!」

店長の言ってること間違っていなかった。
最もだと思った。
涙が出てきた。

俺はクソだ。

俺はクソです。

人間として、何の存在の意味の、価値も無い。

口だけの最低野郎。大馬鹿。ゴミ。

完全に精神が滅入っていた。でも真実だった。

情けなかった。

あれだけのことを言っておきながら、俺は全然ダメな人間だった・・・。

存在していることが恥ずかしかった。

でも存在している。消える勇気さえない。

それから2度と会社に行くことは無かった。

「お前今度来なかったらお前んちまで行くからな。」

最期に言った言葉が怖かった。本気だと思えた。

家にも居られなかった。当たり前だけれど。

逃げ場所を探した。

ひとつだけあった。

俺が実家のほかに育った場所。秩父の山奥。

会社に電話した日、とにかくそこに向かっていた。

車で2時間。

そこには変わらない風景があった。

そして変わらない人たち・・・。

俺の面倒を見てくれた保育園の先生とその旦那さん、2人で経営している民宿。

子供の頃から休みの度に来ていたんだ。

本当は、辞める勇気なんて無かった。

でも着いた時、俺の顔を見て

「おまえ、もうやめろ、ここにいろ」

そう言ってくれたんだ。

いったい俺、どんな顔してたんだろう。ひどい顔だったんだろうな。

なんだかほっとして、体の力が抜けた。

その一言が決め手になって、その日からそこに住むことになった。

もう下には帰らない。

俺はまた救われた。
心ある人に。

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