不良品

俺のいやな予感は的中した。

2003年4月。 店長をはじめて半年ほど経った時に、俺の給料が出なくなった。

それまでは時給で貰っていた。アルバイトと同じ750円。 それでも、休みも取れずに働いたせいもあって、20万を越えはじめた。

そのせいかどうか知らないけれど、事務の姉はこう言った。 「だいじょうぶ!来月からはお給料制にするから。あんた15万だよ♪」 結局は、その給料すら払われることは無かったのだけれど・・・。

店の方は、もう最悪だった。 パートのおばさんは10年やってるベテランだ。

でもできることは人に文句をつけることばかり。 仕事は高校生の方ができるくらいだ。 その学生や、アルバイトのこ達も、クソだった。 やっぱり長くやってる奴ほど、何もしていない。 そんな環境でまともな新人が育つはずなんて無い。 みんな先輩の真似をするんだから。

彼らが得意だったのは、俺の荒探しだった。 俺は本当に未熟な人間なんだ。 前の店長なんてある日突然来なくなっちゃったんだよ。 俺は誰からも仕事を、店長がやるべき仕事を教えて貰えなかった。 やってる事は普通のバイトとなんら変わらなかった。

俺の評価は、最悪だったろうな。 「何にもできない、社長の息子だからしかたないよね。」 そんな感じだった。

そんな時、家族に相談できなかったのは、家族からの評価も最悪だったから。 家族から見ても、 「バイトの信用も得られない、どうしようもない奴。」

そんな印象だったんだろうな。

こんな事があった。 バイトのみんなと酒を飲んだんだ。 その時期、俺は物凄く疲れてたんだろうね。 彼女とどこかへ出かけても、着いた先で一眠りしないと駄目な位だったんだ。

酒が入って、ベロベロだったな。 次の日仕事にならなかった。 パートさんやバイトからも、ボロクソ言われた。 その次の日。

店の掲示板に親父から、 「もっと自覚を持ってやれ。お前は最低の人間だ。」

見たいなのが貼ってあった。 もちろんみんなそれを見てる。

あの時はさすがに反省したな。 反省したけど、頭にきたよ。

「何とか逆転してやる。」

そんな思いとは裏腹に、俺の調子はすごく悪くなっていった。 今思えば、それは、”鬱病一歩手前”みたいな感じだったんだろうな。

俺は死んでた。 何をする気も失せていた。

家族から見たって、俺は不良品なんだよ。 どうしようもない、何の役にも立たない男だった。

ただ、時給を稼ぐには持って来いだった。 俺が入れば何人かバイトが要らなくなるからね。

俺もそれを認めていた。 何にも出来ない事分かっていたから。 それしかできないから。

売り上げなんて、俺が入ってからは落ちっぱなしだった。 最も、ここ10年以上の間上がった事なんて無いんだけれど。 俺が店長である以上、俺にも責任があるんだ。 でも、駄目なんだ。 何にもできないんだよ。

その間に、色んな物を失くした。 それまで大切にしていた何かが、まるで掴んだ砂みたいに指の隙間から落ちていくんだ。 音も立てずに。 気づかない内に。

それでも人生捨てたもんじゃない。 また出会いがあるんだ。そんな俺を救う為に。

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【 二十五ノ夜 】
ChaosBoy

テーマは「脱・思考停止」。
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