親父、母親、姉、俺。

サンシャイン60に行って、作った。 皿に映された人間達は、理想の家族をかたどっていて、それは、今も俺の理想だと思い知らされる。 その皿はどんな事があっても割れない。 どんなに写真が褪せても。 それが事実だから。

2005年1月17日。

午前3時。 静かに、用意したクリアボックスに詰め込んだ荷物を、狭い車のトランクに押し込んだ。

2階の部屋から、玄関の前にある祖父母の部屋を通り荷物を運び出すのは、簡単なことじゃなかった。 誰にも気づかれずに運ぶ。 明け方も近い時間に、全ての積み込みが終わった。

行くあては、あった。

高校からの友人が、「しばらく俺の家にいろよ」そう言ってくれた。 真っ暗な闇の中、自分が十年ほど暮らした家をしばらく見つめた。

そして俺は家族を捨てた。

ため息のように重苦しいエンジン音。 荷物を積みすぎたんだ。 コンビニで待ち合わせた親友。

彼は何も言わなかった。 黙って家まで案内してくれた。

1月17日。

午前5時。 彼の家は隣町の郊外にあった。

「とりあえず、風呂でも入れよ」

真っ白の湯気で充満するバスルームの中で、考えられる事なんてなかった。 疲れ切っていた。 その日はこたつを布団代わりに、寝た。 携帯電話は、電源を切った。 恐かったから。

家族は、俺の事を恨むだろう。 そう思いながら寝た。 眠りは深く、翌日の昼頃、友人に起こされるまで熟睡していた。

友人は仕事に出掛けた。

独りでいる間、携帯が気になったが、努めて違う事を考えるようにした。 部屋の漫画を読みふけった。

俺は久しぶりに自由な時間を得た。 そして同時に、時間の重さを味わった。 携帯には、姉からの俺へのメールが届いていた。 罵倒と侮蔑。

解っていた。 解っていたけれど、いや、解っていたからこそ辛かった。

友人の家で3日間ほど過ごした。 その後、自分があらかじめ契約を交わしていたアパートに移り住んだ。 仕事も直ぐに決めた。 俺には金がなかった。

それからは、落ち込んでいる暇もなく過ごした。 むちゃくちゃだった。 毎日金を数えた。 彼女からも金を借りた。 金の事ばかり考えていた。 生きるという事に精一杯だった。

2005年3月6日。

2ヶ月ほど過ぎた、ある日、交通事故に遭った。 友人の運転する軽自動車で、バスと衝突事故を起こした。 交差点を右折しようとした所に、バスが突っ込んできたのである。 俺は助手席に座っていた。 助手席側が大破した。

奇跡的に軽症で済んだ。 本当に奇跡だったと思う。 肩膝を手術するだけで、命に別状はなかった。 全治2ヶ月。 不意に訪れた長い休暇。

ほっとしている自分がいた。

その事故の話は両親にも伝わったらしく、母親が見舞いに来てくれるようになった。 怒りも衝突もなく。 見舞いには、友人は勿論、店長時代にバイトをしていた人たちが駆けつけてくれた。

本当に大事な事が分かり始めていたんだと思う。 大切なものは、見えない。 けれど、 少しづつ、 だけど確実に、 心に染みこんで来る。

俺がこの世界に存在する意味なんて、殆ど無いだろう。 でも、この世界に存在する事を望んでくれる人がいる。

家出をした日。

真っ暗な闇だった。 ヘッドライトが照らすものを必死で追いかけた。 家出をする前も、してからも、昼も夜もなくずっと真っ暗だと思っていた。

でも、それは違った。

朝が来る。 暖かい日差しはいつもそこにある。

そんなことを教えてくれたのは、やはり人だった。

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【 二十五ノ夜 】
ChaosBoy

テーマは「脱・思考停止」。
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