希望
2004年11月。
俺は山の民宿に居候させて貰っていた。
旦那さんの紹介で『山仕事』をすることになった。
毎日山を登り、登山道を整備する。
ちょうど紅葉のシーズンを迎えていたので、登山する人がいるからだ。
新たな道を作ることもあるし、木を切り倒して橋を架けることもある。
危険な箇所があれば整備する。
俺は登山部だったから、山登りの要領だけは分かっていたつもりだった。
その自身とは裏腹に、自分の弱さを突きつけられる事の方が多かった。
働く山の男たちの強さ。
それは営業などとは違う意味での、逞しさだった。
俺はハンマーで釘を打つことでさえ、巧くできない。
ナタを使うこともできない。
木を切り落とすことも、獣から身を守ることも、危険を察知することも、知らない。
男たちが持っていたのは、生きるのに必要な力だった。
俺の中の本当の価値観が変わり始めた。
人間が生きるのに、本当に必要なもの。
それはなんだ?
彼らはそういうこと教えてくれた。
だんだんと仕事が身についてくる。
難しいことは無い。やるべきことをやればいい。
続けていくうちに、少しづつ、少しづつだけれど、自分に自信がつき始めた。
山仕事は冬には終わる。
みんなは違う仕事を幾つか持っていて、そちらに移行する。
俺は実家に帰った。
2004年12月。
俺は仕事を探していた。
自分のやりたいこと、もう一度自分を取り戻せること。
だから2度と店には帰らない。それだけは決めていたんだ。
幾つかの会社を回ったけれど、なかなか見つからない。
なのに晴れ晴れとした気分だった。
新しい何かに向かっていくような、手応えのような物を感じていた。
映写技師。
その響きで、面接を決めた。
そして契約社員からのスタートとして、仕事が決まった。
翌年1月中旬からの予定だった。
それからは、今まで会えなかった友達たちとたくさん会った。
珍しく忘年会もやったし、色んな話もできた。
希望が生まれた。
全てが順調に進み始めた所だった。
あの日、神様は俺を試したのかな?
思えばこの時から、俺の「自分の為の人生」が始まったんだ。
ChaosBoy
テーマは「脱・思考停止」。
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